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北欧ヴィンテージ家具の素材をご紹介する第4弾は「プライウッド(積層材/合板)」。 1950〜70年代の画期的な技術革新により家具、特に椅子の可能性を広げた素材です。
プライウッド(積層材/合板)の歴史自体は古く、薄い材を互い違いに重ねたものと考えれば約3500年前のエジプトにその痕跡を見出すことができます。
永らく親しまれてきたこの素材に新たな概念が現れ始めたのは第二次世界大戦の頃。
物資の欠乏が目に見えるようになり、金属に変わる資材の候補として考えられたのが軽くて丈夫なプライウッドでした。
単純な「曲げ」を行う技術はすでに確立されていたので、複雑な3次元の面を構成する技術への挑戦が始まりました。しかしなかなか思うような成果は得られず、試行錯誤の繰り返しであったようです。
この状況に大きな風穴を開けたのがアルネ・ヤコブセンとフリッツハンセン社のコンビによる「アント・チェア」でした。
建築家でもあり家具デザイナーでもあるヤコブセンの元にデンマークの「NOVO製薬」から食堂用に使う椅子の製作依頼が舞い込んだのが始まりです。その内容は
・軽量かつ丈夫 ・スタッキング可能 ・円形テーブルに多数が配置可能 ・安価
であるという事。ヤコブセンはこの依頼に応えるためプライウッドに着目し、背板と座面の一体成型を実現するためにフリッツハンセン社との実験に取り組みます。
形を変え、ヒビが入るポイントを削り、また作り直しを行うという気が遠くなるような作業を繰り返し、辿り着いた答えが「アント・チェア」。
別名「アント(アリンコ)チェア」と呼ばれる所以は丸っこい頭と細い足を連想させるフォルムに加え、実は完成当時には細い割れが生じる事が多く、修理痕を目立たなくするために塗られた黒い色のためだと言われています。
それはさておき、これまで誰も成し得なかった「プライウッドによる3次元デザインの一体成型」という技術により家具の世界は1952年に大きな転換期を迎えたのです。
アントチェアの発表から3年後。ヤコブセンは完全な3次元一体成型技術により生み出された「セブンチェア」を世に送り出しました。美しい形としなやかな座り心地は、それまでにない新たな価値観を世界に示したのです。
その後数多くのデザイナーがこの技術に着目し、これまでになかった様々な形の家具:特に椅子が産声をあげました。
プライウッドの究極の形であるセブンチェアは現在もバリエーションを増やしながら生産が続けられ、累計販売台数は世界一と言われています。
プライウッドの特徴をまとめると次のようになります。
・軽く・強く・デザイン性に優れ・断面すらも美しい
椅子の場合フレームはもちろん、背板など微妙な曲線を構成する材としても多用されています。
お手持ちの家具の中にもこの素晴らしい技術が使われているかどうか、一度じっくりとご覧担ってみては如何でしょうか。
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