北欧ヴィンテージ家具の中で、最も身近なものが「椅子」ではないでしょうか。
そして椅子にはよく見ると3本脚のものと4本脚のものがあります。
「実際使うにあたり、どちらの方が良いのだろう?」
という疑問をもとに、デザイン面と機能面からその理由を紐解いていこうと思います。
北欧ヴィンテージ家具の中でも有名なハンス・J・ウェグナーによる「ハートチェア」。
チークの座面とオークのフレームが美しいこちらの椅子ですが、「なぜ三本脚なのですか?」と尋ねられることがあります。
この疑問をもとに、デザインされた背景と、圧倒的に四本脚の椅子が多い理由について見ていきましょう。
ヨーロッパでは床の上に座る習慣がないため、当然のように椅子に座る文化が発展してきました。写真は現代デンマークのあるストリートですが、このようにデコボコした石畳の上でも椅子とテーブルを広げて食事をしたりする機会が多くあります。
その際、四本脚よりも三本脚の方がバランスを取りやすく適しているという説があり、ウェグナー達が取り入れたのはこの伝統的なスタイルである、というものです。
しかしヴィンテージやアンティークに見られる椅子の多くが4本脚であること、現代でもデコボコした石畳で採用されている椅子の多くが4本脚である事を考えると、やや説得力に欠ける説ではあります。
物理という言葉を使うと固くなりますが、単純な事実の問題として提起されるのがこちらの説。
・まず任意の場所に点を打ちます。
・次にもう一つ点を打つことで「線」が生まれます。
・さらにもう1つ点を打つことで完璧な「平面」が生まれます。
つまり、絶対的に安定した「平面」は3点(三本脚)で構成されるので三本脚の椅子は絶対にガタつきません。
しかしこれが4点になると生まれるのは「平面」ではなくなる可能性が出てくるため、「ガタつき」の面から考えると三本脚の椅子が正解と言えます。
がたつきなくピタッと決まるのであれば、床面のコンディションを問わず使用できる三本脚の椅子が理にかなっているのは間違いありません。
では、なぜ3本脚の椅子はスタンダードでは無いのでしょう。実は、ここにもう一つ重要な要素が入ってきます。
それは「安定性」。この部分を少し掘り下げてみましょう。
三本脚の椅子は決してガタつきませんが、重心が四本以上のものに比べ安定しにくい、という面を持ち合わせています。
まっすぐに座る分には何の問題もないのですが、四本脚の椅子と同じつもりで斜めに体重をかけたりすると勝手が違ってバランスを崩す、という事があります。
対して4本脚の椅子は安定性が高く、少々体重移動をしたぐらいではバランスを崩すような事はありません。
この事から、ガタツキのなさと安定性を秤にかけると実際のニーズは圧倒的に後者である、ということが四本脚の椅子が今なお主流であることにつながっていると考えられます。
「安定性」というキーワードから三本脚<四本脚という結論が出ました。では、椅子の脚は多ければ多いほど良いのでしょうか?
その答えのヒントとなるのがこちらの椅子。
キャスター付きの椅子は現代のものも含め、多くが五本脚(5個のキャスター)で構成されています。これは「平面の構成」で少し触れた内容と関連しますが、五角形はどの部分に重心をおいても基本的には「完璧な平面」を構成する三角形が形成されるため、抜群の安定性を誇ります。
キャスター付き、ラウンドタイプの椅子は体重移動の機会が多いので四本脚よりも五本脚の方が適していると言えます。
こう考えていくと「脚は多ければ多いほど安定する」と言えますが、そうすると今度は脚の本数が増える=コストと重量が増す、という新たな問題が出てきます。
また、デザイン的にも脚の本数が増えるごとに難易度は上がっていくようです。
このように、様々な要素を検討し尽くしたうえで、最も私たちの生活に受け入れられるのはやはり「四本脚の椅子」ということが言えそうです。
3本脚の椅子が存在する理由として機能面からアプローチするとあまり芳しく無い結果が見られました。
対象は再びハートチェアに戻ります。今回は単体ではなくテーブルとセットの状態です。実はこれが完成形で、円形の「ハートテーブル」と呼ばれるテーブルに6脚の「ハートチェア」がぴったりと収まるようにウェグナーが設計した製品なのです。
上から見た写真をご覧いただけると分かりやすいかと思いますが、円形にぴったりと収まる形は基本的に扇型です。これがハートチェアが3本足である最大の理由ですね。